- 作者: テリープラチェット,ポール・ギドビー,Terry Pratchett,冨永星
- 出版社/メーカー: あすなろ書房
- 発売日: 2010/06
- メディア: 単行本
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このシリーズを彩るのはゆかいな小人集団ナック・マック・フィーグルズです。小さい女の子を手助けする妖精さんたちといえば聞こえはいいですが、実態は大違い。彼らはいつも悪態をついている品のないおっさんの集団で、便所以外はいつもティファニーを監視している、非常識なストーカーです。序盤では、荷馬車に乗るために合体して人間に化けて大騒ぎをし、強烈なキャラクターをアピールしています。
主人公のティファニーは、前作の冒頭で弟をおとりにして怪物をフライパンでぶっ飛ばすという荒技を見せ、これまた強烈な印象を残しました。彼女はとても頭のいい子なのですが、それゆえ世間と折り合いを付けることに困難を感じていました。わたしは前作を「理屈バカで自我の強い子供がつぶされないようにサバイバルしていく物語」と評していますが、2巻では生物に寄生して精神を乗っ取る化け物ハイヴァーと戦うことになり、自我を守るための戦いというテーマ性がさらに深められています。
ハイヴァーには欲望のリミッターを解除する能力があって、ハイヴァーの支配下にあるティファニーは盗みをしたり人殺しをしたり、悪行の限りを尽くします。だから彼女は、嫌でも自分の内面と向き合わなくてはならなくなります。
ハイヴァーは不死の化け物なので、力や魔法では退けることはできません。ティファニーはハイヴァーの正体を見極め、理屈で説得して対処しようとします。この戦いは「言葉の冒険、脳内の戦い」です。プラチェットは屁理屈をこねくり回すことで、予想もできない高い領域までわれわれを導いてくれました。ハイヴァーの正体とティファニーの出した結論は、あきれるほどの驚きと深い感動をもたらしてくれるはずです。
「魔女になりたいティファニーと奇妙な仲間たち」よりさらにパワーアップした本作が、今年の翻訳ファンタジーのベストになることはまず間違いないでしょう。本書をきっかけにディスクワールドの物語とプラチェットが日本で正当に評価されるようになることが望まれます。