「ついてくる怪談 黒い本」「終わらない怪談 赤い本」(緑川聖司)

ついてくる怪談 黒い本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級?)

ついてくる怪談 黒い本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級?)

終わらない怪談 赤い本  (ポプラポケット文庫 児童文学・上級?)

終わらない怪談 赤い本  (ポプラポケット文庫 児童文学・上級?)

緑川聖司の単著は2005年の「プールにすむ河童の謎」以来久しぶりです。非常に力のある作家だと思うのですが、図書館を舞台にしたミステリという興味を持つ人が限定されそうな素材にこだわっているためか、なかなか本が出せずにいました。今回ポプラポケット文庫から出されたこの連作ホラー短編集「黒い本」「赤い本」で、新たな読者を獲得してもらいたいと思います。
「黒い本」は少年が黒い本を手に入れるところから、「赤い本」は少女が赤い本を手に入れるところから始まります。両方ともホラー短編集なのですが、冒頭部分が少年少女それぞれの現在の状況に酷似した記述から始まっているのが大きな特徴です。ふたりは物語を読み進めると同時に、その物語に似た怪異を経験することになります。メタ構造を持ったホラー短編集であると言えます。
そもそも「終わらない怪談 赤い本」というタイトルを見れば、これが有名なドイツ文学のオマージュであることは容易に予想できます。「黒い本」と「赤い本」は二匹の蛇がお互いの尾を噛み合うような円環構造を形作っています。
緑川聖司は得意のミステリ要素もこの短編集に仕込んでいました。「赤い本」の第三話「呪いの言葉」は、秀逸なダイイングメッセージものでした。単純なアナグラムですが、単純であるが故に美しい。有名な「ムラサキカガミ」の怪談に意外な解釈を施しています。