「ミクロ家出の夜に」(金治直美)

ミクロ家出の夜に

ミクロ家出の夜に

主人公の美陽は、嫌なことがあったとき塾帰りに山手線を逆回りして時間をつぶす「ミクロ家出」を繰り返していました。そんなある日、彼女は電車内で忘れ物をした人に声をかけて警告する親切な化け物網棚ばばあと出会います。網棚ばばあと何度も話すうちに、美陽はばばあの意外な秘密を知ってしまうことになります。
この作品の特徴は、ダメな親をリアルに描いていることです。美陽の両親はともに中卒で非正規雇用なため、生活が苦しく休日に美陽を遊びに連れて行くこともできません。父親は精神的に弱い人間で、自分とも娘ともまともに向き合うことができず、絶対に捨ててはいけないものを捨ててしまった過去を持っています。しかしこの作品は、そんな最低のダメ人間でも、そんなダメ人間の子供でも、もしかしたらやり直せるかもしれない、幸せになれるかもしれないという希望を提示しています。
フィクションにおいて最低の状況から希望を見出すには、それなりの説得力が求められます。この作品の場合、構成の巧妙さで有無を言わせず読者を説得することに成功しています。
伏線を積み重ね、ここぞというタイミングで全てがつながっていると読者に気づかせるように、構成が完璧に計算されています。これこそ手練れの技、紛れもなく傑作です。