『「希望」という名の船にのって』(森下一仁)

「希望」という名の船にのって

「希望」という名の船にのって

正体不明の疫病が広まり、人類が滅亡の危機に直面した近未来の話、疫病から逃れるために船に乗り込んで旅をしている人々がいました。その第二世代で船の中しか知らない子供たちは、この船は宇宙船で新天地を探して旅をしているのだと聞かされていました。ところがそれは大人たちのついた嘘でした。真実を知った子供たちを見て、大人がこれから子供たちは絶望に飲み込まれてしまうだろうと予言する……ここまでがSF短編集「天国の切符」に収録されている「スターシップ・ドリーミン」のお話。本作は絶望しか語られていなかった「スターシップ・ドリーミン」を長編化して、希望の物語として語り直したものです。
近年まれに見る正統派のジュブナイルSFです。真実を知った子供たちが打開策を探っている様子が緻密に描かれていて、物語に引き込まれてしまいます。やがて子供たちの熱意は大人を動かし、彼らは大きなリスクのある難しい決断を迫られることになります。決断に至るまでの葛藤も、起死回生の作戦の模様も緊迫感たっぷりでに描かれています。絶望の中でもわずかな希望を見いだそうとする彼らのたくましさに感服させれてしましました。
変格SFの「どろんころんど」と正統派ジュブナイルSFの本作。一夏に児童書SFの傑作が2作も刊行されたのは快挙です。今年こそ児童書SF復興の年になるかもしれません。