「シャーロット・ドイルの告白」(アヴィ)

シャーロット・ドイルの告白

シャーロット・ドイルの告白

表紙見て海洋冒険小説だと思って読んだら、「蟹工船」だったでござるの巻。
1999年に偕成社から出た作品があすなろ書房から再刊されました。1932年、イギリスで暮らしていたアメリカの良家の少女シャーロットは、アメリカに帰るために単身船旅をすることになります。船長が立派な紳士だったのでシャーロットは安心して船に乗り込みましたが、船員たちが不審な動きをしていました。船員たちが船長への反乱を企んでいるらしいことに気づいたシャーロットは船長に告げ口をします。そこで船長が恐ろしい本性を見せ、なんだかんだでシャーロットは殺人の濡れ衣を着せられ処刑されそうになります。
船の中では船長がルールブック、船長が書いた航海日誌に書かれていることのみが真実と見なされます。そこは船長のさじ加減でいかようにも事実をねじ曲げることが出来る不条理ワールドでした。もちろん船員たちに人権などありません。船員たちは人間扱いされず、過酷な労働を強いられていました。反乱が起こって当然です。
主人公のシャーロットは世間知らずで差別主義者のお嬢です。彼女は紳士であるというだけの理由で船長を信じ切っていました。彼女の言う「紳士」とは、単なる階級を表す言葉でしかないのですが、彼女はそのことを全く自覚していませんでした。一方で彼女は船員たちには侮蔑的な視線を投げかけます。
しかし彼女は、真実を知ったらすぐに自分の考えを変えられるする柔軟性と正義感を持っていました。船長が悪人であることを知ってから彼女は絶望的な戦いを強いられることになりますが、過酷な運命に立ち向かう彼女の姿は非常にさわやかです。