「夏の記者」(福田隆浩)

夏の記者

夏の記者

君もやがてわかるときがくるよ。社会に出て、現実にもまれてみればね。青くさい理想ばかりを追い続けていると、多くの人に迷惑をかけてしまうことになるんだよ。(p124)

久しぶりに本格的な社会派児童文学が登場しました。おなかを壊したうわばみが出てきそうなタイトルですけど。
小学五年生の佳代は、新聞社から夏季限定の子ども記者「夏の記者」に任命されます。しかし、彼女は「夏の記者」応募の際に投稿した論文で盗作をしてしまったので、後ろめたい気持ちを抱えながら記者活動を行っていました。そんな彼女が追っていた事件は、スポーツセンターのガラスにブロックが投げられたというもの。どうやらスポーツセンターの10万人目の入場者に記念品を贈ったイベントが事件に関係しているらしいことまでは突き止めたのですが、センターの館長もイベントに参加した市長も真実を語らず、新聞社の記者までもが彼女の捜査を妨害する事態に発展します。
公共施設の長や市長、新聞社といった権力者の不正を子供が告発する、社会派児童文学として非常に燃える展開がなされています。ただしこの作品の肝は、盗作事件で主人公を嘘をつくことの痛みを知っている人物に設定しているところです。そのため主人公は、自分を絶対的な正義の側におかない節度を持っています。大人たちは大人の事情を盾に自分たちの不正を正当化しようとし、佳代も真実を暴き立てることが本当に正義なのか苦悩します。その過程を経たことで、やはり嘘はよろしくないという当たり前の結論に説得力が与えられています。
ところで、佳代の盗作は同じ「夏の記者」の純子にだけ気づかれていました。このふたりがやがてコンビを組んで事件の捜査に当たることになるのですが、反目し合いながらも次第に信頼関係を深めていくさまが読ませます。少女の友情物語としてもよくできた作品です。