「天風の吹くとき」(福明子)

天風の吹くとき

天風の吹くとき

駅のホームで寡黙な老人が人を待っている……。この後何が起こるのかを予想するのは簡単です。そう、赤毛のアンが現れるのです。
11歳の少女林子は、祖父の住む「空中砦」の街鳥ヶ峰に単身で遊びに来ました。石垣の上にのっている「空中砦」と呼ばれている街、そして、母から聞かされた「鳥ヶ峰の勇者は空をとぶ」という言葉の謎、林子にとっては見るもの全てが新鮮で、力一杯鳥ヶ峰という土地の魅力を楽しみます。
この作品の巧みなところは、視点の移動を使って情報を小出しにしているところです。林子視点では鳥ヶ峰のことは何もわかりません。
一方、鳥ヶ峰の子供の視点では、林子は謎の人物です。天真爛漫な林子が突如「あたし、たいへんな子だから、たまには父さんや母さんとはなれてあげようと思って」と謎めいた台詞を吐いて鳥ヶ峰の子供を驚かせる場面がありますが、その台詞の意味は中盤まで明かされません。
視点を操作することによって、林子と鳥ヶ峰の両方を読者にとって謎の存在にしています。そのため読者は、キャラクターと舞台の魅力を、新鮮な驚きを持って楽しむことができます。