『ズッコケ中年三人組age45』(那須正幹)

ズッコケ中年三人組age45

ズッコケ中年三人組age45

「ズッコケ中年三人組」シリーズの新作です。今回は「ズッコケ三人組」シリーズの中でも特に評価の高い『ズッコケ山賊修業中』の後日談が語られるという前情報が流れていたので、ファンの期待の大きさが通常とは違っていました。そして発表された本作は、期待を大きく上回る出来でした。
まず、『ズッコケ山賊修業中』のストーリーを簡単に復習しておきましょう。近所に住む大学生堀口さんと三人組が、ドライブに出かけた先で土ぐも族と名乗る山賊のような集団に拉致され、くらみ谷という洞窟内の集落に監禁されるという話でした。土ぐも族は土ぐもさまと呼ばれる宗教的指導者が統治していて、くらみ谷だけではなく近隣の村々にも多数の信者を抱えていました。信者たちは、土ぐもさまは「天孫族なる異国の蛮族」の侵略によって地位を奪われた日本の土着の神の末裔であると信じており、いつか都に攻め上って日本の支配権を取り戻すつもりでいました。結局三人組はくらみ谷からの脱出に成功しますが、堀口さんは自らの意志でくらみ谷に残ることを決断して、物語は幕を下ろしました。
『ズッコケ中年三人組age45』では、堀口さんの兄が現れたことをきっかけに三人組が行方不明の堀口さんを捜索し、再び土ぐも族の謎を探るストーリーが展開されます。その過程で、三人組の脱出後に土ぐもさまが処女のまま死んでしまったため後継者争いが起こったことからくらみ谷が崩壊し、土ぐも族の行方がわからなくなったことが明らかになり、調査は難航します。
土ぐもさまは女系の世襲制だったため、女児を遺さなかったことが大きな問題になりました。そのため、土ぐもさまの血を引いた女児を後継者にしないと生き神さまにならないからけしからんとか、どこかで聞いたような議論がなされます。
『ズッコケ山賊修業中』では天孫族のカウンターとして位置づけられていたはずの土ぐもさまが、実は天孫族と同じ脆弱性を抱えていた同じ穴の狢であったという壮大なちゃぶ台返しが、26年の時を経てなされてしまいました。
ところで、『age45』では土ぐも族の話と平行してハカセと荒井陽子の結婚問題が語られていますが、これは偶然ではありません。結婚問題を契機として、元6年1組メンバーの性をめぐるどろどろの暴露大会が始まります。このことにより、土ぐもさまの処女性が強調されることになります。つまり、聖処女の土ぐもさまと下々の俗人たちという、聖と俗の対立構図が生まれるのです。しかし、土ぐもさまはまさにその処女であったために土ぐも族を崩壊させてしまったので、作品内では処女性の価値は否定されます。ここに、聖なるものを引きずり降ろそうという作者の悪意が隠されていると読むことができます。
本作により那須正幹は、ブラック那須健在を世に知らしめました。次はぜひ児童向けの作品で、いたいけな子供たちを絶望の淵にたたき落とす傑作をもっともっと書いてもらいたいと思います。