『ラスト ラン』(角野栄子)

74歳のイコさんが、真っ赤なバイクに乗って亡くなった母親の生家を訪ねると、そこには12歳の少女の姿をした母親の幽霊がいました。イコさんは幽霊のふーちゃんを伴って、あてもなくバイク旅行をすることになります。
YA向けのレーベルで発表されていますが、語彙の選択や語り口は童話のそれで、角野栄子らしい上品な世界が構築されています。
さて、この作品は多くのメディアで取り上げられましたが、その際著者は必ず「『魔女の宅急便』の角野栄子」と紹介されていました。もちろん『魔女の宅急便』は傑作ですが、それだけでは角野栄子を語るにはあまりにも不十分です。著者の名前など読者に認識されない幼年童話の世界でこそ、角野栄子の真価は発揮されます。角野作品を語ろうとするなら、幼年向けのおばけやかいじゅうの話を忘れてはなりません。
おばけだろうがかいじゅうだろうがなんでも飲み込んでしまう童話の文体の包容力は、非常に強固です。
『ラスト ラン』は、74歳の老女が自分の母親である12歳の少女の幽霊と旅をするという、頭のどうかしている設定の話です。角野栄子は童話の文体の力を自在に操れるので、そうした無茶苦茶な話も容易に成立させてしまいます。老年も思春期も、生者も死者も、時間すらも攪拌してすべてを受け止めてみせる、豪快な作品になっていました。