『天の車』(上種ミスズ)

天の車―明日に翔けるリウ (講談社 青い鳥文庫)

天の車―明日に翔けるリウ (講談社 青い鳥文庫)

講談社児童文学新人賞受賞作に、宇宙人とアトランティス人が戦うトンデモSFがあったとは……。
『天の車』は1971年の第12回講談社児童文学新人賞受賞作で、翌年単行本になり、後に講談社文庫版、青い鳥文庫版も出ましたが、現在はどれも絶版になっています。
アトラント帝国(アトランティス)に囚われた少年シダは、生け贄にされそうなところをイルムール王国の船に助けられます。イルムール王国の人々はかつて地球に不時着した異星人の末裔で、当時の技術では造れないような道具を所有していました。アトラント帝国の王アトラスは、シダを自由の身にするかわりに空飛ぶ兵器「天の車」を差し出すように要求しますが、イルムール王国はそれを拒否。この事件をきっかけに両国の関係は緊張していきます。
トンデモSF設定で興味を引きながら、善と悪の戦いをオーソドックスに描いていて、なかなか読ませます。
アトラント帝国の王アトラスは、領土拡大の野心に燃える悪人ながら、「天の車」欲しさに王自ら敵国に乗り込んでいく大胆不敵さを持っていて魅力的。対するイルムール王国にも、純粋な少年王とそれを支える忠臣といった役者が揃っています。
SFとしてみると、人類と恐竜が同じ時代に生きていたというつく必要のない嘘をついているところなど、多少気にかかる点はあります。が、アトランティス滅亡の原因がぶっとんでいて笑えたので、終わりよければすべてよし。
古い青い鳥文庫をあさっていて偶然この作品を見つけました。40年前のこんなに愉快なSF児童文学を発掘できたのは僥倖でした。