『あやかし草子』(那須正幹)

あやかし草子―現代変化物語 (シリーズ 本のチカラ)

あやかし草子―現代変化物語 (シリーズ 本のチカラ)

世にもふしぎな物語 (講談社KK文庫)

世にもふしぎな物語 (講談社KK文庫)

1991年に刊行された短編集『世にもふしぎな物語』の改題新装版です。内容は『雨月物語』の設定を現代に置き換えた翻案。「菊花の約」「青頭巾」「浅茅が宿」「蛇性の婬」「夢応の鯉魚」の5作の翻案が収められています。那須正幹の作風と『雨月物語』を知ってる人は、嫌な予感しかしませんね。これまた破壊力抜群のトラウマ児童文学になっています。
「青頭巾」は、寵愛していた稚児が亡くなったために気が狂った僧が、稚児の死体を食べて食人鬼となる話です。那須版では僧と稚児ではなく老婆と孫娘になっていますが、愛によるカニバリズムというテーマはそのままです。しかも、「青頭巾」というタイトルから「青ひげ」を連想したのか、終盤におそろしく猟奇的な場面を追加し、原作よりもひどい結末を迎えさせるという手の込みっぷり。「夢応の鯉魚」も原作からして怖い話ですが、那須版はもっとひどくなっています。
浅茅が宿」はヒロシマの話に書きかえられています。満州から帰ってきた男が故郷の広島で妻と再会するが、一晩過ぎると焼け跡しかなかったという話になっています。焼け跡に立った即席の市で少女がたばこを売っている様子などの生活描写にリアリティがあり、それだけにこの出来事の重みが胸に迫ってきます。今回の原発事故の直後に那須版「浅茅が宿」が再び世に問われたことの意味も、検討されなければならないでしょう。