『真夜中のカカシデイズ』(宮下恵茉)

真夜中のカカシデイズ (ティーンズ文学館)

真夜中のカカシデイズ (ティーンズ文学館)

カカシ怖いよ。家の隣の畑にマネキンの頭をつけたカカシが何体も立っているって、怖すぎだって。
主人公の高橋聡太は、勉強は得意だけど友達を作るのが苦手な少年でした。そんな彼ですが、同じ塾に通う仲橋航太と趣味のクイズのことで意気投合し、初めての友達を得ます。ふたりは付属中に入ってクイズ研究会に入会することを約束します。ところが航太だけ受験に失敗し、聡太はひとりで付属中に入学することになります。しかし航太が公立中で新しい人間関係を作っていることにショックを受け、聡太は引きこもりになってしまいます。そして隣の畑のカカシがしゃべる幻聴が聞こえるようになるところまで追い詰められてしまいます。
宮下恵茉は立て続けに『あの日、ブルームーンに。』『真夜中のカカシデイズ』の2作を刊行しています。一方はさわやか初恋物語で一方は引きこもりホラーと、かけ離れた内容に見えますが、実は2作には大きな共通点があります。そこを検証していくと宮下恵茉の児童文学作家としてのありかたが見えてきそうです。
以下2作の結末に触れます。
共通点のひとつは、主人公の性格設定です。ブルームーンの主人公もカカシの主人公もコミュニケーションが苦手で勉強が好きな子供として造形されています。そしてストーリーの転がる方向も同じ。非コミュの子供が運良く仲良くなれそうな相手を見つけて努力して関係を作っても、自分の力ではどうしようもない事情で関係が壊れてしまうという、夢も希望もない話をしています。両作とも最後は関係を修復させようと一歩踏み出そうとするところで終わりますが、修復する保証はどこにもありません。
コミュニケーションが苦手な子供の気持ちに寄り添いながらも、でも関係を修復できるかどうかは自分次第だよと突き放す。優しさと厳しさの配合のさじ加減が絶妙です。