『宇宙のはてから宝物』(井上林子)

宇宙のはてから宝物 (文研じゅべにーる)

宇宙のはてから宝物 (文研じゅべにーる)

主人公は小学六年生の少女あかりと、その唯一の友人である由宇。あかりの母親は精神を病んでいて、由宇の母親はアルコール依存症で両親の喧嘩が絶えず、ふたりは陰鬱な日々を送っていました。
あかりの語りには、年齢にふさわしいシンプルで飾らない言葉が使われています。そのため、理不尽な状況への彼女の異議申し立ては悲痛でなりません。

どうしてママはこんなに弱いの?だからあたしも弱いの?クラスメイトとつきあえないの?もう、なにもかもがいやだ。(p32)

「なんで大人のくせに弱いのよ。そんなの許せない!大人だったら、強くなきゃいけない。正しくなきゃいけない。いじめなんかしちゃいけない。子どもじゃなくて、大人なんだから。そうでしょ!」(p84)

でも、あたしは、世の中のいやなことや、こわいことに立ち向かう自信がない。これから先、大人になるにつれてふりかかるしんどいことに、耐えられると思わない。(p94)

では、理不尽な現実に耐えられない子供はどうすればいいのでしょうか。現実の中に救いがないとしたら、観念の世界に逃げ込むしかありません。由宇は、宇宙のはてから地上を見下ろす空想をして現実をやり過ごしていました。そうすれば「いやなものも、こわいものもなにも見えない」と言うのです。
第40回児童文芸新人賞受賞作。賞をとるまでこの作品を見逃していたのは迂闊でした。子供の置かれている困難な状況を見事にすくい取った力作でした。著者の井上林子は1977年生まれのまだ若い方なので、今後が期待されます。
ただし、一点だけ気になることがありました。この作品にはあかりと由宇とその両親、3組のペアが登場するのですが、そのいずれもより壊れているのは女の方で、男の方が支えるというかたちになっているのが疑問です。性差による偏見を読者に植え付けることにならないか心配です。