『ほんとうにあった12の怖い話』(スーザン・プライス)

ほんとうにあった12の怖い話

ほんとうにあった12の怖い話

スーザン・プライスによる実話(?)怪談集。スーザン・プライスですから面白いことは言うまでもないので、内容については語りません。
この作品集の特徴は、序文でそれぞれの怪談のソースとそれに対する語り手の見解が書かれていることです。たとえば、曾祖父の語ったことだから信用できるとか、教師の話だから信用しがたいとか。このことにより語り手の判断の恣意性が可視化されるので、読者は話を信じるのか信じないのか、自分の姿勢を問われることになります。
その意味で興味深いのは第九話の「雄牛」です。神父が雄牛の化け物を嗅ぎタバコ入れに封印する話なのですが、末尾に語り手が現れ話の矛盾点を指摘します。

それにしても、わたしが不思議に思うのは、村人たちがなにに雄牛をいれたかです。ほんとうはなんだったのでしょう?嗅ぎタバコ入れのはずがないのです。千年前のイギリスには、嗅ぎタバコはなかったのですから。でも、この教会には絵があって、この話の雄牛が嗅ぎタバコ入れに座り、ちょうどふたが閉まろうとしているところが描かれています。ですからきっと、この話はほんとうにあったことなのでしょう。

情報に対する判断のあり方が見事にずらされています。