- 作者: スーザンプライス,Susan Price,安藤紀子
- 出版社/メーカー: 長崎出版
- 発売日: 2011/06
- メディア: 単行本
- クリック: 20回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
この作品集の特徴は、序文でそれぞれの怪談のソースとそれに対する語り手の見解が書かれていることです。たとえば、曾祖父の語ったことだから信用できるとか、教師の話だから信用しがたいとか。このことにより語り手の判断の恣意性が可視化されるので、読者は話を信じるのか信じないのか、自分の姿勢を問われることになります。
その意味で興味深いのは第九話の「雄牛」です。神父が雄牛の化け物を嗅ぎタバコ入れに封印する話なのですが、末尾に語り手が現れ話の矛盾点を指摘します。
それにしても、わたしが不思議に思うのは、村人たちがなにに雄牛をいれたかです。ほんとうはなんだったのでしょう?嗅ぎタバコ入れのはずがないのです。千年前のイギリスには、嗅ぎタバコはなかったのですから。でも、この教会には絵があって、この話の雄牛が嗅ぎタバコ入れに座り、ちょうどふたが閉まろうとしているところが描かれています。ですからきっと、この話はほんとうにあったことなのでしょう。
情報に対する判断のあり方が見事にずらされています。