『ロップのふしぎな髪かざり』(新藤悦子)

ロップのふしぎな髪かざり

ロップのふしぎな髪かざり

人間にとりつくジンが住む島が舞台。この島に人間の少年バハルが流れ着いてきます。彼を見つけたのは、まだ人間にとりついたことのないジンのロップでした。ロップはバハルの魂の優先権を得ますが、なかなかバハルにとりつかず、島で交流を深めていきます。
ジンの設定が興味深いので詳しく紹介します。ジンは人間より感情が薄く、感情の濃い人間に憧れて人間にとりつき、魂の一部を分けてもらうのだといいます。最初にこの設定だけ明かされるので、ジンは人間を補食する化け物であるようにみえました。しかしのちに明かされる設定では、人間の魂は一部をとられても再生するということになっているので、さして問題はないようです。さらに、ジンにとりつかれると人間の苦しみが解放されるようなので、人間側にもとりつかれるメリットがあることになります。つまり、ジンと人間の関係は捕食や寄生ではなく、相利共生であることになります。
ジンは人間の魂を得ることで、その感情も自分のものにできます。ジンにとって感情は、外付けデバイスのようなものであるらしいです。
もしジンの設定が、人間を癒すための装置としてのみしか機能していないのであれば、作品を高く評価することはできません。しかし、ジンと人間の関係は互恵的です。もしかするとこの作品は、感情の様式の異なる者同士の共生のあり方を模索しようとしているのかもしれません。
だとすれば、終盤にジンと人間が協力して演劇をするという展開もおもしろいです。演技という回路を通すことで、感情の濃淡に差のある者を同じ地平に立たせようと試みているようです。