『オン・ザ・ライン』(朽木祥)

オン・ザ・ライン (SUPER! YA)

オン・ザ・ライン (SUPER! YA)

伝統校のテニス部に所属する高校生侃の物語。優秀な親友の貴之に複雑な思いを抱いたり、その貴之の彼女らしい少女にひそかに思いを寄せたりしながらも、テニスに打ち込む日々を過ごしてました。ところが、侃と貴之の関係を揺るがす思いがけない事件が起こります。
一読して、最近のYA作品とは一線を画すプレーンさに驚きました。主人公が抱える親友への劣等感といった悩みが非常にストレートに語られています。自意識の問題が焦点化されることの多い主流のYAの主人公と、悩みを持ちながらもまっすぐ成長していく侃は、まったく異質にみえます。
どちらかというとこの作品は、今のYAよりも近代文学(たとえば『こころ』とか『友情』とか)に近い心性を持っているように感じました。主人公が文化的に裕福な基盤を持っていたり、挫折したときに一時的に世を捨てて逃げ込む場所を持っていたりするような余裕のある人物として造形されているのが、なんとなく高等遊民っぽいです。
先鋭化した現代のYAの中で、こういった素朴な作品は貴重です。
しかし、一点だけ疑問に感じたことがあります。この作品の舞台は藩校までさかのぼれる伝統校で、最近共学になった元男子校だという設定になっているのですが、伝統ある男子校特有のホモソーシャルな文化が不用意に礼賛されているように感じられました。
教室内で男子が無意味に裸になるという風習を屈託なく肯定するような描写に限っていえば、完全にアウトです。女子のいる前では自重していることになっていますが、それは問題ではありません。セクハラは男から女という方向のものだけではありません。男から男という方向のセクハラもあることを忘れてはなりません。「伝統」と称して明らかなセクハラを免罪するのはいかがなものかと思います。