『レンタルロボット』(滝井幸代)

レンタルロボット (ジュニア文学館)

レンタルロボット (ジュニア文学館)

第19回小川未明文学賞大賞受賞作品。小学4年生の健太が、ふしぎな店から弟ロボットのツトムを借りる話です。小学生の全財産の2106円(ロボットの名前にかけられている)で借りられるというところに妙なリアリティがあってよいです。
ただしこの設定は、倫理的に難しい課題を抱えています。ツトムはロボットだから人権がないので、気に入らなければいつでも捨てることができます。このいびつな関係性をどう倫理的に処理するのか、あるいはしないのかが注目されます。
実際弟はいろいろな厄介事を起こします。そして健太は、ツトムと利害が対立すると、「お店に返すぞ!」といって脅します。
以下結末に触れます。




健太は、泣き叫ぶツトムを無理矢理店に連れて行って捨ててしまいます。すぐにロボットは記憶を消去され、別の人間に貸し出されます。健太はそこでツトムを捨てたことを後悔しますが、どうすることもできません。
自分のしたことの結果を取り返しのつかないこととして引き受けさせたのが、この作品のとった倫理的な選択であったと理解すべきでしょうか。
物語の最後、ツトムの母親がもうすぐ赤ちゃんを産むことがわかります。そして、ツトムから遺された手紙で、弟ロボットであるツトムは兄にはなれないので、どちらにしても健太の前から去らなくてはならなかったという事が明かされます。
ツトムはやはり人間ではなかったということが強く印象づけられるので、SFとしてはこのオチは面白いです。ただし、健太の倫理的失敗を多少免罪してしまう効果もあるので、その意味では余計だったような気もします。