『オレンジ党と黒い釜』(天沢退二郎)

オレンジ党と黒い釜 (fukkan.com)

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オレンジ党と黒い釜 (1978年)

オレンジ党と黒い釜 (1978年)

暗黒児童文学ファンタジー史に燦然と輝く傑作、「三つの魔法」シリーズの新作が刊行されるというので、再読してみました。
三部作【三つの魔法】第一の部分『オレンジ党と黒い釜』は、1978年に筑摩書房から刊行されました。
物語は鈴木ルミが六方小学校に転校してきたところから始まります。そこで彼女は、〈黒い魔法〉と戦っている小学生グループ「オレンジ党」のメンバーと知り合い、行動を共にするようになります。オレンジ党の目的は、黒いものを封印した黒い釜を見つけ出してつぶすことでした。釜はオレンジ党メンバーの親の死に場所に隠されています。〈古い魔法〉の使い手源先生や〈黒い魔法〉の使い手木村先生と対立しつつ、オレンジ党は冒険を繰り広げます。
「三つの魔法」シリーズは多数のサイドストーリーを抱えた大変複雑なシリーズなのですが、第一部の段階では宝探しの物語が大筋となっているので、比較的わかりやすいです。ただし、主人公グループの子供の親がみんな死んでいて、その死に場所で宝探しをさせるというのがおそろしくブラックです。このシリーズは出発点から頭がおかしいです。
物語を読み進めていくと、闇のイメージの奔流に圧倒されます。特に印象に残っているのが、幽霊ブルドーザーが無数の紙人形を踏みつぶして、黒コボシ(小人)の集団を生み出す場面です。ブルドーザーは近代の鉄のイメージ。紙人形を使った魔術は、日本では古来ポピュラーな魔術です。金銀を好み山師の才能があるというコボシからは、トールキンの小人が思い起こされます。古今東西の闇を織り交ぜて、重層的な闇のイメージが練り上げられています。
以下備忘用メモ。作品の核心部分に触れています。

三つの魔法(とき老人の説明による)

〈黒い(わるい)魔法〉「死の世界からくるもので、主として水に住んでおる」
〈古い魔法〉「イギリスの田舎あたりでそう呼ばれている。土に住み、それ自体はべつによくも悪くもない」
〈時の魔法〉「およそ生命の源をつかさどるもので、主として樹木に宿っておる」
(ルミの父の説明)「ぜんたい、森というものはだな」「一つ一つが生きものでね、一つの森に必ず一本『ときの樹』というものがあるのさ」

〈黒い魔法〉と〈時の魔法〉の戦い

〈黒〉と〈時〉は同じものの裏表。20年前に〈グーン〉(著者によれば「グーン」=「軍」)と呼ばれる〈黒い魔法〉の手先と、ルミらの母親が戦い、勝利を収めた。10年ばかり前にグーンが土の中に残していた黒いものたちが生き物のようにうごめきふえはじめた。その時〈古い魔法〉の協力で黒いものを五つの釜に封印した。

釜のありか

東寺山の崖下の畑

ゆきえの母が崖崩れで生き埋めになった。古い魔法のいけにえとなった?(道也説)

六方野原の古井戸

竜三郎の母が身投げ。

源町の古い泉(物言う泉)

エルザの母と道也の父が死亡。エルザと道也はここでオレンジ色の聖杯を見た。(→短編「闇の中のオレンジ」)

だんだら墓地

ルミの母が死に、父が行方不明になる。

山王牧場南・製薬工場跡

森コージの母が死体で発見される。

登場人物

鈴木ルミ

彼女が父と母がかつて住んでいた家に引っ越したことから物語は始まる。小学6年生ながら家事を取り仕切きる。愛読書が『食べられる野草』というところから、日頃の苦労が推察される。転入した六方小でエルザらオレンジ党のメンバーと知り合い、釜探しの冒険に参加することになる。

李エルザ

オレンジ党のリーダー。六方小所属。魔法の棒を操り、魔法を使う。

由木道也

エルザとともに最初期からのオレンジ党メンバー。六方小所属。

名和ゆきえ

オレンジ党メンバー。六方小所属。

竜竜三郎

オレンジ党メンバー。六方小所属。

森コージ

オレンジ党メンバー。千早台小所属。

とき老人

オレンジ党を指導する老人。『ときの樹』の精のようなものか?〈時の魔法〉を使う。釜をつぶすのはとき老人である。最期の釜をつぶす際犠牲になるが、「森にはあたらしく後継ぎのときの樹が生まれよう」と予言する。

源先生

〈古い魔法〉の使い手。源家は《物言う泉》の守り主。このへんの〈古い魔法〉の元祖。六方小から千早台小(古い魔法の牙城)に転任。黒い釜の地図を所持し、オレンジ党に対立する。六方小の児童西崎ふさ枝・鳥羽ケイ子を手下にする。1巻の最後、3人は緑の制服を着た姿で登場する(緑衣隊と手を組んていた?)。

木村先生

〈黒い魔法〉の使い手。源先生と対立する。

ルミの父

引っ越しの直後、ルミと森に入り行方不明になる。とき老人の説明では、「死せる妻をやみの底までもとめておりたために、告発されておった」。1巻の最後に、鈴木文彦先生として六方小に赴任した。ルミは「フミヒコ」は父の前の名前だと認識している。警官が家に訪ねてくる場面で、警官は「鈴木太一郎」と呼んでいる。この場面で特にルミのコメントがないことから、彼女は父の今の名前を「太一郎」と認識していたと思われる。名前を替えている理由は不明。