- 作者: 天沢退二郎,林マリ
- 出版社/メーカー: 復刊ドットコム
- 発売日: 2004/12/25
- メディア: ハードカバー
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- 作者: 天沢退二郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1983/12
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あらすじをまとめる努力は放棄します。オレンジ党が《鳥の王》からの救援依頼を受けとるところから物語は始まり、《鳥の書》なる謎のアイテムの争奪戦が第三部の大筋となります。しかし、《鳥の王》のメッセンジャーとなる吉田四郎が、「夢がほんとになったり、夢でよその現実に入り込んだりできる」《夢師》で、夢の世界が第二の舞台となり物語は複雑になります。さらに「鏡」なんてものも重要なアイテムとして登場して別の世界を映しだすので、全体像をつかむことは大変困難です。
オレンジ党の他に、田久保京志・石橋みどりといった本編でほとんど語られない壮大な背景を持ったキャラクターが入り乱れ*1、サイドストーリーが錯綜します。エルザや吉田四郎が語る裏設定は情報が全く開示されないので意味不明なだけ。全くお手上げです。
しかし、情報を制限されることによって、オレンジ党の子供たちの恐怖や心細さをともに体験できるという面もあります。物語から突き放されている感覚を受ける一方で、その分深く物語に没入させられもするのです。
以下備忘用メモ。作品の核心部分に触れています。
登場人物
鈴木ルミ
吉田四郎に自分と同じ《夢師》の才能を指摘される。何度もさらわれたり行方不明になったりする。道也の「ルミがまた、さらわれてる!」というセリフがギャグとして機能するくらい、お姫さま役が定着してきた。
李エルザ
優秀な魔法使いの血筋に目を付けられ、生け贄にされそうになる。
名和ゆきえ
いまだ詳細な消息は明らかにならず。夏休み中にオレンジ党が出したはがきの返事が来ないので、エルザは手紙が検閲され廃棄されているのではないかと疑う。
竜竜三郎
鳥の言葉を解したり、竜に変身(!)したりと、3巻にきて急に人間離れした活躍をみせる。
田久保京志
ルミと妹のチサの区別がつきにくくなってきて、ルミを助ける騎士役として定着。ルミを探している途中でチサ(おそらく偽物)が運転する霊柩車を発見して自転車で追いかけたり、炭袋に落ちたルミを助けにいったり、けなげに活躍する。
石橋みどり
鳥の言葉を研究している鳥博士・石橋幸太郎の娘。魔法の腕はかなり高そう。「グーンの黒い森」(『闇の中のオレンジ』)にも登場する。石橋博士は《鳥の書》を解読できるので狙われていた。
源先生
いろいろ暗躍するけど成果は得られず、エルザから「先生は《古い魔法》から見捨てられたのよ。かわいそうねえ!」と罵倒される。
白衣の老人
源先生とつるんだりつるまなかったりして悪巧みをするが、目的はよくわからない。
西崎ふさ枝
《鳥の書》を探すため、六方小の男子を引き連れて鳥を虐殺する。
緑衣隊
石橋博士を狙う。
三人目の母親
西崎ふさ枝の母親、三枝さんと呼ばれる母親と行動を共にするが、普通の人(小津先生)には見えない。正体は全く不明。
吉田四郎
《鳥の王》のメッセンジャーを務める《夢師》。神社の跡取り?本当の目的は、祖父が盗んで神社のご神体としていたが、《鳥の王》の手に渡っていた《鳥の書》をとりもどすことだった。いやがる姉を無理矢理悪事に協力させている。《鳥の書》はもともとエルザの祖母アリシアおばあさんと祖父李春吉(イユンギル)の結婚のしるしとなった魔法の宝石だった。
《鳥の王》
八ツ岡一帯の鳥を治めている。オレンジ党を呼び出した真の目的は、《鳥の書》とエルザを生け贄にして《黒い太陽》を手に入れることだった。《黒い太陽》は《鳥の王》の元主人で、《沼の王》も操っていたらしい。三部作における黒幕の位置にいるのが《黒い太陽》か?
ルミの父
夏の事件を元に、『オレンジ党と魔の沼』という童話を書いている。
金船長
緑衣隊に追われるオレンジ党を助け、親との再会の手引きをする?
検討課題
オレンジ党世界における「おきて」とは?
作品世界では「おきて」の存在が示唆されている。エルザによれば魔法は〈ときの魔法〉〈古い魔法〉〈黒い魔法〉の3つだけであるのがルールらしい。1巻で死んだ妻を求めたルミの父はルールに基づく裁きを受けたことになっている。しかし、3巻でオレンジ党メンバーは死んだ父母との再会を果たす。井上乃武は、とき老人の死や死の国へいたる「うすあかりの道」の汚染によって、ルールが混乱したと指摘している*2。では、そのルールを決定し運用しているのは何者なのか?
名前の意味
登場人物の名前の呼び方には大きな意味が隠されていそうである。李エルザの姓は(リ)というルビが振られているケースと(イ)というルビが使われているケースがある。イと呼ぶのは源先生、西崎ふさ枝、《鳥の王》なので、敵方の人間の使う呼称だと思ってよさそうである。
ルミは「ルミ子」と呼ばれることもある。この呼称を使うのは吉田四郎、《鳥の王》、そして1巻の夢に登場する正体不明の女である。こちらの使い分けは判断がつきかねる。
ルミの父親の名前が「フミヒコ」なのか「太一郎」なのか、なぜ変名を使うのかも三部作では解決されていない謎である。
京志には三部作、「夜の道」(『ねぎ坊主畑の妖精たちの物語』)では(きよし)とルビが振られているが、「赤い凧」(『闇の中のオレンジ』)では(キヨーシ)となっている。この二者は別人と理解すべきか、もしくは「語り手」が違うから呼び方が異なるのか?
「杉の梢に火がともるとき」(『ねぎ坊主畑の妖精たちの物語』)はまさに名前をめぐる作品で、「もし書き記せば、この物語は消滅し、読んでいるあなたがたも消滅する」という名前が登場する。
書物・物語の役割
ルミの父親が『オレンジ党と魔の沼』という小説を書くことによって、メタフィクショナルな位相が浮かび上がる。3巻では『鳥の書』という書物とも宝玉ともつかないものが重要なアイテムとなっている。
オレンジ党の関連短編でも書物や物語は重要な役割を果たしている。「三人のお母さん」(『闇の中のオレンジ』)では、主人公サヨコの「おまえのお話」とされる大きな本が燃やされる。「グーンの黒い地図」(『ねぎ坊主畑の妖精たちの物語』)では、グーンの物語は主人公大門一郎*3の父親によって「想像ででっちあげたお話」だと主張される。また、「秋祭り」(『闇の中のオレンジ』)に登場する芝居小屋も、メタフィクショナルな装置とみなせる。