『仮面城からの脱出 ちぎれた世界のリトルレイダー』(廣嶋玲子)

仮面城からの脱出 ちぎれた世界のリトルレイダー (講談社青い鳥文庫)

仮面城からの脱出 ちぎれた世界のリトルレイダー (講談社青い鳥文庫)

青い鳥文庫での廣嶋玲子の新シリーズ。妹を疎ましく思っている祐樹は、影郎という怪しい男を家に招き入れてしまい、妹を異界に連れ去られてしまいます。後悔した祐樹の前に現れたのはねずみのような小人たち。杜松(ねず)一族と名乗る小人たちは、異界への道をつくったり、異界を切り離したりする能力を持っていました。祐樹は杜松たちとともに、妹を救うため異界に旅立ちます。
「異界」や「異質」なものの扱い方が興味深いです。杜松一族によると、作品世界における異界「ちぎれた世界」とは、「ちぎれ雲のようにこの世界から切り離され、独自の理を持って存在している異界」で、杜松一族はそういった異界がこちらの世界に結びつかないようにする役割を与えられているのだそうです。そして、この世界を大きな庭に喩え、ちぎれた世界はその庭から放り出された毒キノコなのだと説明します。ということは、ちぎれた世界はもともとこの世界に属していたものだということなのでしょうか。
杜松一族の説明を信じるなら、「異界」やそこに属する「異質」なものは、絶対に関わってはいけないほどこの世界からかけ離れた存在だということになります。しかし、1巻の悪役の美を最優先とする思想などは、それほど理解不能なものには思えません。もし、シリーズの最後まで「異界」や「異質」なものに対する態度がこのままであるとすれば、それは排除の論理であるとの批判は免れないでしょう。
祐樹が影郎に感じている不思議な魅力や、普通の人に見えないものが見えるという意味で祐樹も「異質」な存在であることなどを考えると、この態度がひっくり返される可能性はすでに示唆されているといえそうです。「異界」や「異質」といった問題を現在の児童文学がどう処理していくのか、先が注目されます。