- 作者: 那須正幹,前川かずお
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2011/12/01
- メディア: 単行本
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宅和先生はいつから理想の先生だということになったのでしょうか。『ズッコケ三人組の卒業式』での彼は、確かに、これこそ理想の先生だという輝きをみせていました。しかしふだんの彼は、生徒からばかにされている毒にも薬にもならないおじいちゃん先生です。彼が教員としてめざましい活躍をしたのは、思い出せる限りでは『ズッコケ文化祭事件』の一作だけ。それもあくまで裏方としての活躍なので、学園ドラマの主人公となり得るような教師像とはほど遠いものでした。
おそらく宅和先生は、全50巻という時間の中で作者と作中人物と読者の共犯関係によって、事後的に理想の先生だということにされたのでしょう。作中人物および読者が宅和先生を理想化しているのは、記憶の捏造によるものです。
以前にも指摘しましたが、記憶の捏造・改変・忘却は那須作品でよくみられるテーマです。『ガラスのライオン』『ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー』『六年目のクラス会』などがそれにあたります。中年三人組の『age42』でも、過去の三人組の体験が記憶の捏造であったかのような考察がなされています。
宅和先生像、そしてその先生像をぶちこわすスキャンダルもこの記憶の捏造テーマに関わってくるので、『age46』は那須作品を語る上で避けて通れない作品になるはずです。
しかし、『age46』で重要なのは記憶の改変テーマだけではありません。『結婚相談所』の血縁に対する無関心問題も関わってきますし、『児童会長』や『文化祭事件』の主要人物のその後も語られ、唖然とさせられます。そして、中年シリーズからの懸案であったハカセと荒井陽子の関係も新たな局面をみせ、早くも破局の予感を漂わせています。
前作『age45』があまりに素晴らしかったので、正直なところ中年シリーズではこれ以上のものは望めないのではないかと思っていましたが、わたしの考えが甘かったようです。那須正幹にしてみれば、『age45』でようやくエンジンをかけ、『age46』でアクセルを踏み始めたところで、これからトップスピードに持っていこうとしているのかもしれません。このペースでシリーズが盛り上がっていくとすると、途中で振り落とされないか心配です。