『マジックアウト1 アニアの方法』(佐藤まどか)

マジックアウト〈1〉アニアの方法

マジックアウト〈1〉アニアの方法

誰もが魔法の力「才」をもって生まれ、それによって「高度な科学技術」*1を実現しているエテルリア国で、ある日突然「マジックアウト」と呼ばれる、魔法が消失する現象が起こります。そのため深刻な電力不足に悩まされ、国情が不安定になります。そこで立ち上がったのが、名家に生まれながら「才」を持たないため差別されていた少女アニア。彼女は風力発電の施設をつくることを提案しますが、人々の反発を買ってしまい、事業は難航します。
震災前に書かれた作品だそうですが、電力不足というタイムリーな素材を使っているため話題を呼びそうです。それを抜きにしても設定は興味深いです。
エテルリア国には、「才」の強弱による厳密な階級制度が存在します。しかしマジックアウトのため階級制度の前提が崩壊してしまいます。さらに「才」によって国の周りに張っていたバリアが消滅してしまったため、鎖国状態にあった国が他国との軋轢にさらされるようになります。こういった火種をたくさん抱えた状況の中で、人々が、社会がどのような動きをしていくのか、先が気になります。
ただし、エテルリア国の「高度な科学技術」についての具体的な描写がほとんどないため、設定について疑問は残ります。最大の疑問は、被差別階級にある無才人や才の弱い人々が、なぜ今まで「高度な科学技術」ではなくまっとうな科学技術を発展させて抵抗しようとしなかったのかという問題です。多少の科学技術では太刀打ちできないほど国の治安維持部隊が強いという描写や、もしくは下層の人々が不満を持ちにくいほど「高度な科学技術」によって便利な生活が実現されているという描写でもあれば説明できるのですが、それがないためそもそもなぜこの国が成立しているのかというレベルで躓いてしまいます。

*1:科学は万人に開かれたものなので、「才」によって使い手が選別される「高度な科学技術」と称するものが、本来の意味での「科学技術」ではないということには注意しておく必要があります。