『お嬢様探偵ありすと少年執事ゆきとの事件簿3 豪華客船の爆弾魔事件』(藤野恵美)

児童文学界を代表する本格ミステリシリーズ「お嬢様探偵ありすと少年執事ゆきとの事件簿」の新作です。ありすとゆきとは、爆破予告された名画を守るために豪華客船に乗り込みます。
藤野恵美は、序盤にふたごの刑事を登場させて、探偵役に「実はふたごだった……なんて、あなた、そんなトリック、いまどき、ありえないわよ」と言わせています。これは、自分は使い古されたトリックをうまく使いこなしてみせるという宣言に等しく、著者の本格ミステリ作家としての野心が感じられます。実際に彼女は、ふたごトリックともうひとつの使い古されたトリックを合わせ技にして、見事な詐術を成し遂げました。
本作では、絵画の贋作が重要な小道具となります。そしてゆきとは、豪華客船のバトラーがお嬢様に自分より気の利いたご奉仕をするのを見て、アイデンティティクライシスにおそわれます。ここにふたごもからんできます。すると、人間は入れ替え可能なのか、代替可能なのかという高度なテーマ性が浮かび上がってきます。
児童文学としてのテーマ性の高さと本格ミステリとしてのロジックの美しさを同時に実現できるのが、藤野恵美という作家のおそろしいところです。