- 作者: 菅野雪虫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/03/30
- メディア: 単行本
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聡明で孤高、人間に関心が薄いようで実は誰よりも熱い正義感を持っているイェラ王女は、魅力的なキャラクターの多いシリーズの中でもとりわけ輝いていました。そんな彼女が主役を張るのだから、おもしろくならないはずがありません。
正妃の子供でありながら女だったため誰からも期待されず、孤独な子供時代を過ごしたイェラ。わずかな人物と心を通わせることもありましたが、必ず悲しい別れが待っていました。
側室が生んだ3人の王子の中でもっとも虚弱なカナン王子に対し、イェラはもどかしい思いを抱きながらもなにかと気にかけていました。やがて、「わたしは、イェラに弟だなどと思ってほしくない」という告白同然のセリフをもらうようになります。それがまさか、あんな結末を迎えるとは……。
知識への渇望を満たすために通っていた天文台では、天文官のフェソンと仲良くなります。しかし天文台は「移転」という名目でつぶされてしまい、フェソンも天文台と運命をともにします。このエピソードは、児童文学館の件をはじめとする橋下徹の文化破壊政策を批判しているものと思われます。
イェラはすがすがしいまでに運命にもてあそばれます。菅野雪虫のストーリーテラーとしての実力がいかんなく発揮されていますね。
このようにひどい子供時代を過ごしたイェラは、若くして他人から必要とされることの快楽に酔ってはいけないということを悟るまでに老成してしまいます。イェラがこのあとどのように巨山を改革していくのかが気になります。ぜひ外伝を続けて、彼女の今後の物語も語ってもらいたいです。