「マジカル☆ストリート」(日本児童文学者協会/編)

日本児童文学者協会編の魔法をテーマにしたアンソロジーです。偕成社から全10巻で刊行されています。カタノトモコのおしゃれなカバーイラストが目を引きますね。収録作の中から面白かった作品をいくつか紹介します。

ねこの魔法使い (マジカル★ストリート)

ねこの魔法使い (マジカル★ストリート)

「サーカスの道化」(石井睦美

サーカスで働く年取った道化が、同僚の若い道化が本物の魔法使いなのではないかと疑う話。サーカスという非日常空間にさらに魔法を放り込み、その不思議さとはかなさを強調することに成功しています。しみじみとした読後感もよいです。

二時間だけの魔女 (マジカル★ストリート)

二時間だけの魔女 (マジカル★ストリート)

「宇宙のはてまで」(田部智子)

単独宇宙飛行をしている少女の宇宙船が故障して漂流する話。壊れかけたペットロボットとの会話で、望みのない状況をうまく演出しています。

妖精めがね さしあげます (マジカル★ストリート)

妖精めがね さしあげます (マジカル★ストリート)

「地球の魔法の時間」(きどのりこ)

博物館の中で、シルクロードと恐竜の世界が混じり合う幻想を見る話。不思議な出来事が起こった原因が、展示されていたフーコーの振り子が静止したため地球の自転も止まってしまったからであるという着想がおもしろいです。

魔法のスープ めしあがれ (マジカル★ストリート)

魔法のスープ めしあがれ (マジカル★ストリート)

「三日月の魔女」(岡田なおこ

子供は親を選べないという絶望が描かれた作品です。ゲームに夢中になっている間に娘を事故死させた夫婦が、魔女と契約して子供を生まれ変わらせます。しかしクズ親はクズ親のままで反省することなく、契約条件であった花の栽培を生まれ変わった娘に押しつける始末。魔女に助けてもらったほかの人間は交換条件の労働にぶつくさいいながらも感謝していたのに、娘の両親だけは全く感謝しません。他の契約者と魔女の関係はギャグとして語られているため、娘の不幸が残酷に照らし出されてしまいます。

ハロウィーンの魔女 (マジカル★ストリート)

ハロウィーンの魔女 (マジカル★ストリート)

「ペット・フェアリー」(那須正幹

いろいろな超能力を持った妖精がペットとして普及した近未来の話かと思いきや、まさか戦争児童文学になってしまうとは……。那須正幹らしいドライな語りが背筋を凍らせます。

バレンタイン☆キューピッド (マジカル★ストリート)

バレンタイン☆キューピッド (マジカル★ストリート)

「バレンタイン☆キューピッド」(市川宣子)

1年のうちでバレンタインの日をもっとも憎む少年が主人公(理由を穿鑿してはいけない)。非道なことに市川宣子は、恋に全く関係のない人間だけがバレンタインに暗躍するキューピッドを見ることができるという設定をこしらえて、少年に地獄絵図を目撃させました。

バースデーには、すてきな魔法を! (マジカル★ストリート)

バースデーには、すてきな魔法を! (マジカル★ストリート)

「天使の、わっ」(金治直美)

天使から羽と輪を与えられて天使にしてもらったものの、肝心の天使の役割を教えてもらえなかった女の子の話。いい意味でのくだらなさと、オチのひどさが光っている作品です。笑えるという点では、このシリーズの中で一番です。

学校の魔法使い (マジカル★ストリート )

学校の魔法使い (マジカル★ストリート )

「森の家の子どもたち」(二宮由紀子)

作品が難解なことで知られる二宮由紀子ですが、これもなかなか厄介でした。
姉弟が二人で暮らしている家に、ひとりの旅人がやってきて、身の上話を始めます。ところが姉弟は旅人の話をはぐらかしでばかりで、話はいっこうに核心に向かいません。たとえば、旅人が自分は以前この家に住んでいたのだと語り出すと、「あら、なんて偶然なんでしょう」「あたしも、この家に住んでいるんですのよ」と当たり前のことを言って煙に巻くといった具合。
物語を進行させようとする旅人とそれを茶化して阻もうとする姉弟の闘争になりますが、旅人は翻弄される一方で完全敗北します。そして、旅人が負けた後の展開も不可解です。確実にいえるのは、この姉弟がとんでもなく恐ろしい化け物であるということくらいです。