- 作者: 小森香折,柴田純与
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 2012/04/18
- メディア: 単行本
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狛犬と悪魔という組み合わせは東西の文化が入り交じっていて奇妙な感じがしますが、これが不思議といい味わいを出しています。小森香折は設定にこるタイプの作家なので、知識と注意力のある読者が読めばいろいろなものが見えてくるはずです。
もっともおもしろかったのは第4話の「No kidding!」です。主人公の連はオレオレ詐欺の犯人に監禁されてしまいます。第1話の主人公の美可が狛犬に導かれて通りかかったので、助けを求めようとしますが、ここで重大な問題が発生します。連は吃音で、状況をうまく言葉にして伝えることができなかったのです。
「日本語は同音異義語が多いので、音声だけのコミュニケーションは難易度が高い」と冷静に分析した連は、それなら英語を使えばいいというナイスアイディアを思いつきます。さらに、同じ学校に通う生徒なら誰もが知っている、英語教科書に出てくる台詞を使ってわかりやすくするという、高度なコミュニケーションスキルを土壇場で発揮します。
しかし、ここまで知恵をしぼったのにすぐに犯人に露見してしまい、美可もあっけなく捕まってしまいます。この気の抜け方がまたいい味になっています。
なぜか最近、コミュニーケーションの困難を発話の難しさというレベルで問題にしている作品が講談社児童文学新人賞周辺で目立ちます。樫崎茜の『ボクシング・デイ』がそうでしたし、第52回講談社児童文学新人賞の『よるの美容院』も緘黙の子供が主人公になっています。精神面でなくテクニカルな側面からそうした問題に立ち向かう方策を提案していることが、「No kidding!」の成果であるといえそうです。