『手にえがかれた物語』(岡田淳)

手にえがかれた物語 (新・子どもの文学)

手にえがかれた物語 (新・子どもの文学)

手にえがかれた物語 (偕成社文庫)

手にえがかれた物語 (偕成社文庫)

1992年の作品の偕成社文庫化。
妻を亡くして落ち込んでいるあきらおじさんに会うため、季夫といとこの理子はおじさんのいる公園を訪れます。美術の先生であるおじさんを元気づけるために、季夫は以前おじさんにやってもらった、手に絵を描く遊びを再びすることを提案します。おじさんは人差し指と中指を足に見立てて、それぞれの手の甲に季夫と理子と自分を描きます。さらに、おじさんの手のひらに指を枝に見立てて、リンゴの木を描きます。おじさんの手の裏表をみると、リンゴの木におじさんが逆さづりにされていることになります。さらには目をふたつ描き込むだけでワニを作ったり、季夫と理子の手を合体させると鳥になるようにしたりと、さまざまな工夫を凝らします。
岡田淳には手遊びをテーマにした作品として他に、『フングリコングリ』という傑作もあります。図工の先生だけあって、身体という具体物を手がかりに想像力を飛躍させることなどお手のものなのでしょう。
ひととおり手に絵を描いたあと、手に絵を描きながらこしらえたお話が現実化して、木に逆さづりになってワニに狙われるおじさんを救うために、季夫と理子が奮闘することになります。ふたりは自分たちが作った物語のルールと絵の設定に従いながら、おじさんを助ける方法を探ります。
つまりこの作品は、物語をつくるという最高におもしろい遊びのやり方を解説しているのです。まず物語のルールを遵守すること。その上でルールをどう運用するかに知恵を絞ること。これがいかに楽しい作業であるかが、この作品を読むとよくわかります。