- 作者: みうらかれん,大島妙子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/05/23
- メディア: 単行本
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第52回講談社児童文学新人賞佳作。一見してストーリー運びのうまい著者であることがわかります。この手の作品では落語の解説と物語を両立させなければならないので、力のない著者が書くとストーリーのテンポが犠牲にされてしまいがちです。しかしこの作品では、登場する落語とストーリーがうまくかみ合っていて、落語の解説も主人公の心情に即して語られるので、すらすらと読み進めていくことができます。落語のおもしろさを伝えるための作品として「皿屋敷」を選択するセンスもいいです。
落語が演じられている場面では、落語内の台詞は『』でくくられていて、地の文では暁音がストーリー解説をしつつそれに対するつっこみを入れています。落語の世界と内気な少女の内言の不調和がふしぎなおかしみを出しています。ラストの暁音が落語を演じる場面では、この語りが演じている暁音とそれを観察している暁音を乖離させます。
暁音は国語の教科書から『登場人物の気持ちになって音読してみよう』という一文を見つけ、それをヒントに落語を演じようとします。演じることによって他人の気持ちを理解しようという教育的な方向に進みそうですが、この作品ではその限界までも示してしまいます。
初音が暁音と三島くんを引き離そうと、三島くんの悪口を言う場面が、この少しあとにあります。ここでの初音の台詞が、「ノナちゃんはやさしくてすなおだから、三島にいいようにのせられているだけだよ」。初音は三島くんの気持ちを代弁しているつもりで、実は自分の暁音に対する独占欲を表明しているだけなのです。なかなか一筋縄ではいかないところがあって、著者の次の作品が期待されます。