『お父さん、牛になる』(晴居彗星)

お父さん、牛になる (福音館創作童話シリーズ)

お父さん、牛になる (福音館創作童話シリーズ)

タイトルの通り、ある日突然お父さんが牛に変身してしまうという不条理小説です。
アイディアとしては『変身』を家族視点から書いてみたという一発ネタですが、料理の仕方がうまいです。毒虫に変身するならまだかわいい、牛となると糞の処理だけでも大変です。やけに冷めた息子の視点から、ほどよい距離を持って牛をめぐる騒動が語られるのが愉快です。
牛になる前からお父さんは家庭内でないがしろにされていました。欠勤を不審に思った同僚が訪ねてきたとき、お母さんが職場に迷惑をかけていることをわびると、全然困っていないことを何度も強調され、職場でも戦力外であったことが明らかになります。このあたりの苦いギャグがたまらなく笑えます。
後半になると家族の知らなかったお父さんの顔がいろいろと見えてくるのですが、お父さんの立場が持ち上げられることはなく、ペーソスに満ちたラストが導かれます。不思議な味わいの怪作でした。
著者は2007年の詩のボクシングのチャンピオンで、これが初の児童文学作品となります。ぜひ児童文学界に定着してもらいたいです。