『ドレスを着た男子』(デイヴィッド・ウォリアムズ)

ドレスを着た男子 (世界傑作童話シリーズ)

ドレスを着た男子 (世界傑作童話シリーズ)

乾いたユーモアとエスカレートする物語、これぞイギリス児童文学です。
主人公のデニスは、サッカー少年ながらひそかにきれいな衣服に興味を抱いていました。女性向けファッション誌に離婚した母親が着ていたのとそっくりな服が載っていたので購入したところ、それが父親に見つかって大目玉を食らいます。そんなとき、学校一の美少女リサと仲良くなり、女装の手ほどきを受けることになります。はじめはリサの家の中できれいな服を着たり化粧をしたりするだけでしたが、やがて女装した姿で町に出たり学校に通ったりと、危険な道に進んでしまいます。
とにかく、ギャグの密度がすごいです。しかも、重要な転換点となる場面にこそ最上級の笑いが仕込まれているので油断なりません。女装がばれそうになるもっとも緊迫するはずの場面であそこまでのコメディを繰り広げるとは……。フランス語の先生がかわいそうで笑いが止まりません。
うさんくさい語り手も、イギリスらしくておもしろいです。この語り手、デニスが初めてのハイヒールでの歩行に苦戦しているときに、「ハイヒールは、慣れるのに少し時間がかかるんだ。おっと、わたしの経験ではないよ。人づてに聞いたんだ」とわざとらしい嘘をついたりするのです。著者はイギリスでは有名なコメディアンだそうなので、本国の読者は本人の顔を思い浮かべながら読むのでしょう。でもここは、具体的な顔を思い浮かべることのできない外国の読者の方が、イメージがふくらんで楽しめるような気もします。
ただひとつだけ、見逃せない欠陥がありました。最後の方でデニスは、女装は「ごっこ遊び」であると強調してしまうのです。ここで、「ごっこ遊び」以外の理由で女装している人々は完全に排除されてしまいます。この余計な一言さえなければ年間ベスト級の傑作であると言い切ることができたのですが、もったいないです。