『金の本』『銀の本』(緑川聖司)

海をこえた怪談 銀の本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級〜)

海をこえた怪談 銀の本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級〜)

最近怪談シリーズしか出ていないので、緑川聖司がもともとミステリの人だったということが忘れられかけていました。しかしこの作品によって彼は、ミステリ児童文学作家としての存在感をあらためてアピールすることに成功しました。
主人公の小林悟は、フランスにいる曾祖父からの招待で、曾祖父の住んでいる古城に単身フランスに赴きました。城には血縁者が集められていました。曾祖父は『銀の本』という家宝を探し当てたものを城の跡継ぎとすると宣言します。館・遺産相続・宝探しゲーム、この三点セットがそろえばなにかが起きないはずがないですね。
枠物語として怪談を語ることがメインのシリーズなので、枠外のミステリ部分はやや駆け足な感じはします。しかしここはむしろ、限られた分量できちんとフェアにミステリに仕上げたことをたたえるべきでしょう。
時をこえた怪談 金の本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級〜)

時をこえた怪談 金の本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級〜)

それにしてもこのシリーズ、毎回色に関する怪談をよく思いつくものだと、著者の知識と発想力に感心させられます。特に「金」に関しては、わたしは落語の「黄金餅」と谷崎の「金色の死」くらいしか思いつかなかったので、カバーイラストに寺があるのをみて「その手があったか!」とやられた気分になりました。
いとこの洋さんと車に乗っていた西野麻理は突然の雷雨で身動きがとれなくなり、近くにあった山寺に逃げ込みます。携帯電話はつながらず、嵐で寺の電話線も切れて、おあつらえむきに嵐の山荘になります。近くに宝石強盗が逃げ込んだというニュースもあるなか、山寺には嵐で行き場を失った人が何人もやってきます。はたして山寺に宝石強盗は紛れ込んでいるのか……『銀の本』に続いてミステリファンの喜ぶシチュエーションになっています。
残念ながら『金の本』の方には推理要素はなく、ただのサスペンスになっていますが、それはそれでOKです。