『開店!メタモル書店1 わたしの話が本になる!?』(関田涙)

関田涙のポプラポケット文庫での新シリーズ。これを読むと、関田涙が児童文学界に不可欠である理由がよくわかります。
その町の子供たちの間では、チダルマという化け物の噂が飛び交っていました。真っ赤な衣装を着込んだ身長1メートルくらいの小男で、その男に「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」という呪文を唱えられた者は石になったように固まってしまうというのです。主人公の岡部莉央もチダルマの噂におびえる一人でした。彼女はメタモル書店という不思議な本屋に迷い込み、フェアヴァントルングという図鑑のような分厚い本を渡されて、あろうことかチダルマと戦うことを強要されます。
フェアヴァントルングは、開いたページに載っている動物の能力を所持者に付与する力を持っていました。というわけで、物語は一種の能力バトルもののような趣向となります。関田涙は本業が本格ミステリだけあって、こういう知的ゲームの処理はお手のものです。おそろしいチダルマのあっけない最期に読者は唖然とさせられるはずです。本書の2つのエピソードで早くもパターンを確立しているので、手堅く楽しませてくれるシリーズになるはずです。
さて、注目すべきは主人公の造形です。莉央は小学5年生にして「本なしには生きられない体」になってしまった重度の読書依存症患者でした。そんな彼女ですから、メタモル書店という異様な使命を持った本屋に選ばれたのは必然となります。ここで、「マジカルストーンを探せ!」シリーズを読んでいる方は宵宮月乃の病を思い出してください。月乃のもっとも深刻な病は、心臓病ではなくビブリオマニアであることです。「マジカルストーンを探せ!」シリーズの語り手は月乃ではなくもうひとりの主人公の日向だったので、月乃の自意識の問題は隠蔽されていました。しかし「メタモル書店」シリーズの語り手は莉央なので、読書耽溺者の自意識の問題がストレートに表出されます。このシリーズ(勘のいい読者であれば「マジスト」シリーズも)には、読書に耽溺する子供にほど突き刺さるなにかが隠されているのです。この領域に踏み込むことができる作家はまれですから、関田涙の存在は児童文学界に不可欠です。