『あしたもきっとチョウ日和』(高田桂子)

あしたもきっとチョウ日和

あしたもきっとチョウ日和

今もっともSFマインドを持っている児童文学作家は実は高田桂子なのではないかと、この作品を読んで思いました。
小学4年生の奈美は、保育園エスケープの常習犯の妹ミチルの世話で大忙しの毎日を過ごしていました。母親は自分の店を持つために仕事をかけもちしていて、家庭のことを顧みなかったため、負担が奈美に押しつけられることになったのです。エキセントリックな妹と過ごす日々の様子が、軽やかな文体で綴られています。
奈美が脳内に変換ロボットなるものを搭載しているという設定がユニークです。変換ロボットの役割は難解なのですが、意味のとりにくいミチルの言葉を翻訳したりする機能があるようです。、ところが、途中で変換ロボットの調子が悪くなり、そのとき読んでいた「虫愛ずる姫君」の「いとをさなきことなり」というフレーズが脳内に割り込んでくるようになります。
変換ロボットの正体は伏せておきますが、これと「虫愛ずる姫君」の件は、脳内に他人を憑依させていると読み取ることができます。それによって奈美はコミュニケーションの方法を学び、社会性を獲得しているのです。この作品は、SFの域まで達している高度なコミュニケーション論になっています。