『オズのエメラルドの都』(ライマン・フランク・ボーム)

完訳 オズのエメラルドの都 《オズの魔法使いシリーズ6》

完訳 オズのエメラルドの都 《オズの魔法使いシリーズ6》

オズ第6巻。作者が最終回のつもりで用意したエピソードですが、読者の要望で結局まだまだ続くことになりました。
ドロシーの家は以前から困窮していましたが、ここにきてとうとう首が回らなくなり、なんと一家でオズに移住することになってしまいます。
1巻だけみると典型的な行って帰る方式の異世界ファンタジーだったオズが、巻が進むと行ったきりになってしまうとは。井辻朱美は、かつての異世界ファンタジーでは〈異世界=道場観〉が支配的だったが、80年代後半から「行ったきり異世界」が増えてきたのだと述べています*1。また、斎藤次郎は、「「帰る」とはその人がいちばんその人らしくいられる場所に落ち着くことです。自分がいま「ここ」にいる意味を発見し、確認することが帰る理由なのだ」と、帰ることの重要性を分析しています*2。両方とも説得力のある論ですが、オズが「行ったきり異世界」だったとなると、帰らなくてはならないというドグマが昔はそれほど強かったのかという方面に関しては疑問が出てきます。
さて、『オズのエメラルドの都』ではノーム王によるオズ侵略のエピソードが語られます。砂漠に囲まれているためオズへの侵攻は困難でしたが、ノーム陣営は穴を掘って地下から攻め込むというナイスアイディアを思いついてしまいます。そして、周辺の凶悪な種族を集めて恐ろしい連合軍を作ります。ここの悪者が大集合していく様子がたいへん愉快です。
対するオズは、総大将のオズマ姫がボンクラで、魔法で侵攻を察知していて、なおかつ魔法のベルトというチートアイテムを持っているのに、なにもせずにひとりで絶望してしまいます。オズの先行きが心配になってしまいます。

*1:『ファンタジーの万華鏡』(2005,研究社)

*2:行きて帰りし物語―キーワードで解く絵本・児童文学』(2006,日本エディタースクール出版部