『空を泳ぐ夢をみた』(梨屋アリエ)

空を泳ぐ夢をみた (NHKネットコミュニケーション小説)

空を泳ぐ夢をみた (NHKネットコミュニケーション小説)

梨屋アリエの短編集です。初出はNHKネットコミュニケーション小説のWeb連載で、小説の形式でネットとのつきあい方を子供たちに啓発しようという企画のようです。この作品集では、ネットの怖さよりも、うまく使えばいろいろな可能性が開かれるという希望の方を重点的に語っています。ケータイ小説を模したような詩情のある文体で、タイトルにある「空を泳ぐ夢」をみる場面が出てきますが、そこから今の子供が魔法の世界のようなSFの世界のような可能性に満ちた世界に生きているということがわかります。
ただし、ネットを題材にしているというのはこの作品集の一面でしかありません。梨屋アリエが短編作家として並外れた力を持っていることはすでに『プラネタリウム』や『夏の階段』などで証明されていますから、この本も彼女の短編小説として楽しめばいいのです。
第1話と第2話は悶え死にそうなほど甘い恋愛小説で、これはこれですばらしいです。しかし後半の作品になると梨屋アリエらしいブラックさが出てきます。第3話では自作の絵をネット上で無断使用されたことに文句を言ったら、相手になにが悪いのか全く理解されなかったというエピソードが出てきますし、第4話には友達面をして障害者の主人公に無情な仕打ちをする少女が登場します。ネットであろうがリアルであろうが切らなければならない人間関係があるということ、世の中には言葉の通じないひどい人間が存在するということを、きれい事を排してみもふたもなく語っています。