『きみスキ』(梨屋アリエ)

7人の高校生が交互に語り手を務める形式の連作掌編集です。主人公となる少年少女は、中学時代からの片思いに悩む文学少女であったり、彼女がほしい一心で空気の読めない空回りした行動を繰り返す少年であったり、高校デビューしてギャルを演じている少女であったりと、誇張されたキャラクターとして設定されているので、作品世界には非常に入り込みやすいです。しかし、その入り込みやすさとは裏腹に、内容は物語性が排除された文学性の高いリアリズム作品になっています。これだけ魅力的なキャラクターをそろえたのであれば、青春ラブコメ群像劇としてエンターテインメント性の高い作品として仕上げることもできそうなものですが、梨屋アリエはあえてその道をとりませんでした。
実際に語られる内容は、友達とジェラート屋にいって、見栄を張って甘くないメニューを注文してさもおいしいようなふりをして見せたり、親から「なに食べたい?」と返答に困る質問をされてもやもやした気分になったりと、なんでもない日常のエピソードをスケッチしたものです。どうにもならないことはどうにもならないし、どうにかなることはどうにかなってしまうという、嫌になるほどのリアリズムにしびれてしまいます。
そのリアリズムが顕著に表れているのは、恋愛面のエピソードです。恋愛に向いている子供はすぐパートナーを見つけられるのに、そうでない子供はいつまでたっても片思いのままであるというどうにもならなさ。最終章でなにひとつまるく収まらないという現実性。この作品に登場する子供たちは物語から見捨てられていて、ただただ現実を生きるしかないのです。
エンターテインメント性の高い物語で楽しませてくれる作家は現代の児童文学界にはいくらでもいます。そんななかで、若い読者の入り込みやすさを工夫しつつ、渋いリアリズムを提供しようとしている梨屋アリエは貴重な存在です。