『ラビットヒーロー』(如月かずさ)

ラビットヒーロー

ラビットヒーロー

如月かずさの新作はローカルヒーローものです。ということで、彼が講談社から出した長編3作の主人公はみな仮面をかぶった人物として設定されているという、珍しい事態になりました。仮面には正体を隠す機能があります。また、柳田国男の「仮面に関する一二の所見」を参照すると、伝承の世界では仮面をかぶることによってその不思議な力を得ることができるという機能もみられるようです。『サナギの見る夢』『カエルの歌姫』『ラビットヒーロー』の3作でも両方の機能が利用されています。今後如月作品を考察する上で、仮面に対するこだわりは重要な要素になりそうです。
特撮番組が好きで部活にも所属せず友達もなく孤独な高校生活を送っている宇佐清春が主人公。ある日うっかりライダーのフィギュアをめぐってけんかをしている双子に声をかけてしまったがために、その双子の姉であり宇佐の同級生でもある美少女と接触し、さらに彼女の紹介で祖父の遺志を継いで地域振興のためにローカルヒーローショーを企画している先輩と知り合い、とんとん拍子でヒーローの中の人役を引き受けさせられることになります。
前半部分は素直な変身願望が満たされそうな流れになりますが、そううまくいくはずがありません。宇佐は何重にも下駄を履かされてヒーローの地位を手にします。偶然に偶然が重なった出会い、ヒーローのコスチュームが「たまたま」小さかったために小柄な宇佐しか着用できなかったこと、本来バスケ部のエースでリア充の先輩がけがをした引け目から仲間を頼りづらい状況にあったことなど。不安定に重ねられた下駄は、当然崩れ去ることが前提なのです。後半はスクールカーストものになり、非常に居心地の悪い話になります。
最終的な落としどころとして、『カエルの歌姫』の主要なテーマのひとつがまたも浮かび上がってきます。仮面へのこだわり、「X」の表象するもの……、なかなか尻尾をつかませてくれない作家なので、次の作品が楽しみです。