『エーミルはいたずらっ子』(リンドグレーン)

エーミルはいたずらっ子 (岩波少年文庫)

エーミルはいたずらっ子 (岩波少年文庫)

スウェーデンの農場の息子が破壊的ないたずらを繰り返すシリーズの、石井登志子による新訳版です。以前講談社から出ていた尾崎義訳を読んでいたので、主人公の名前が「エーミール」でなく「エーミル」と表記されているのに違和感はあります。が、邦訳されているリンドグレーンのシリーズもので唯一入手難になっていた作品がよみがえったのは喜ばしいことです。
第1話では、エーミルがスープ鉢に頭を突っ込んで、抜けなくなったことから騒動が起きます。吝嗇家の父親は、スープ鉢をたたきわって息子を救出することを拒否。そして、4クローナの鉢を失うよりも、医者に3クローナ払って抜いてもらうほうがいいと提案します。そこから壺算式の奇妙な錬金術が繰り広げられます。
このシリーズに限らず、リンドグレーン作品には金にうるさいという特徴があります。小学生時代のわたしがもっともなじんでいた外国の通貨がクローナであったのは、どう考えてもリンドグレーンのせいです。ものの売り買いで経済活動をするのは、子供にとって社会参加の第一歩です。それを丁寧に描いているところがリンドグレーン作品を輝かせている要素のひとつなのでしょう。