『オズのパッチワーク娘』(ライマン・フランク・ボーム)

完訳 オズのパッチワーク娘 《オズの魔法使いシリーズ7》

完訳 オズのパッチワーク娘 《オズの魔法使いシリーズ7》

オズ第7巻。運の悪いオジョ少年が、魔法の事故で動けなくなってしまったおじさんを助けるため、魔法の薬の材料探しの旅に出る話です。
もうひとりの主人公は、様々な端切れで作られた人形である、パッチワーク娘のハギレです。彼女は魔法使いの夫妻のお手伝いさんとして開発さました。あとは脳の成分を入れて〈命の粉〉を振りかければ完成というところで、オジョ少年がやってきます。
魔法使いの奥さんのマーゴロットは、〈すなおさ〉と〈感じよさ〉と〈誠実さ〉だけを入れて、「ほかの素質はお手伝いさんには必要ない」として作業を止めます。これは大人の欲望の赴くままにデザイナーベビーを作る話とも読めます。 やはりオズはSFですね。このあとオジョ少年がこっそり〈かしこさ〉や〈詩心〉などの脳の成分を混入したため、パッチワーク娘はたいへん愉快な性格になってしまいます。
ガラスでできたネコのヘマ子もおもしろいキャラクターです。彼女は透明な自分の体を誇っていて、なにかあるたびにピンク色の脳が動いているところを見せようとします。まるで露出狂です。オズは多様な存在に対して非常に寛容です。
オズの寛容さがもっともあらわれているのが、オジョ少年が間違いを犯して収監される場面です。オジョ少年は牢屋の居心地があまりにいいので驚いてしまいます。牢番は、「わたしたちは、囚人のことを不幸だと思っているの。ふたつの点でね。悪いことをしてしまったし、自由をうばわれてしまうからよ。そんな不幸な人だから、やさしくあつかうべきだと思っているの。だってやさしくしてあげないと、その人は心をかたくなにとざしてうらみをもつようになり、悪いことをしたことを後悔しないでしょうからね」と説明します。オズのユートピア性には、きっとアメリカの思想のもっとも理想的な部分が出ているのでしょう。