- 作者: 藤野恵美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/12/11
- メディア: 単行本
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- 作者: 藤野恵美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/10/31
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もうひとりの主人公は学校一の美少女の結城あおい。彼女は勇太がせつなのカーディガンをこっそり抱きしめているところを盗撮して弱みを握り、彼を下僕にします。彼女の命令は、恋人役としてダブルデートにつきあうことでした。あおいが熱烈に片思いしている子に〈彼氏〉ができたので、ダブルデートを口実にして接触しようというのが作戦の目的。開始40ページ足らずでスタンダードな恋愛物語からずれていって、先の展開への期待がどんどん高まっていきます。
結局この作品は、自己肯定感の低い人の弱みにつけ込むことが恋愛であるというあまりにもあまりな恋愛観を提示して、ロマンチックラブ・イデオロギーをずたずたに破壊してしまいました。勇太とあおい、そしてせつなの家族が崩壊していることからも、恋愛や結婚という制度に疑義を差し挟もうとする強い意図が感じられます。
さて、主人公のひとりの勇太はアニメオタクであるという設定になっていて、作中にアニメからの引用が目立ちます。たとえばあおいの片思い相手の彼氏は、2011年に大ヒットしたふたつのアニメ作品の悪役の印象的なセリフを髣髴とさせる発言をします。この作品ではその手法を、たんなるアニメファン向けのサービスでは終わらせていません。そういったメタな表現を入れることによって二次元恋愛と三次元恋愛を同じ俎上に載せ、恋愛という制度の欺瞞の検証を試みているのです。