『ふたつの月の物語』(富安陽子)

ふたつの月の物語

ふたつの月の物語

異能を持つ二人の孤児が、養子候補として金持ちの老婦人に招かれます。ふたりの出生の秘密、ダムに沈んだ村に伝わる死者をよみがえらせる神事、大口真神の伝説、物語は様々な謎をはらみながら、老婦人の隠された目的の遂行に向かって進んでいきます。
富安陽子だけあって、日本の土着的なファンタジーの料理はお手のものです。怪しげな神事や狼と人との異類婚など、暗く不思議な世界が魅力的に描かれています。加えてミステリ的な味付けが強いので、非常に娯楽性の高い作品となっています。
圧巻なのは神事の正体がわかってからのラスト80ページほど。実はこの作品はファンタジーではなくタXXXXXもののXXだと判明して物語の方向性が定まってから、怒濤の勢いできれいに物語がたたまれていきます。人間の切なる願いは奇跡を起こすことはできても、条理をまげることはできないという悲劇が、美しく描かれた傑作でした。