『密話』(石川宏千花)

密話

密話

「日本児童文学」2011年3,4月号から2012年1,2月号にかけて連載されていた「わたしと友だちになってはいけない」を改題加筆修正して単行本にしたものです。すばらしい不健全図書でした。
主人公は下水道に住んでいる正体不明、年齢不詳の化け物です。この化け物は小学6年生の子供が大好きで、よく小学校に入り浸っては好みの子供を物色していました。やがて化け物はマミヤくんという大変美しい少年と友だちになり、〈メアリー〉という名前を与えられます。ところがマミヤくんは性格に難があり、メアリーに命令して気に入らない先生やクラスメイトに嫌がらせを繰り返していました。メアリーはマミヤくんに心酔していたので、命令を忠実に守り、何人もの人間を恐怖のどん底に陥れます。
この作品の不健全さは、美醜を絶対の価値基準にしているところにあります。この作品の対象読者であろう小学校高学年から中学生くらいの子供も、「人を見かけで判断してはいけない」ということはしつけられているので、おおっぴらにこの価値基準を導入することはありません。しかしこの作品の主人公は化け物なので、そういった規範にしばられることはありません。メアリーは欲望のおもむくまま美しい子供に執着します。
中盤、メアリーは自分が甘やかしたことによってマミヤくんがさらに邪悪な子供になってしまったことに気づき後悔します。しかしここでもメアリーは美醜を判断のよりどころにします。メアリーは、もし自分が醜い化け物ではなく、美少女の姿でマミヤくんの前に現れたら違う展開になったのではないかと夢想するのです。
読んで不快な気分にしかならない作品ですが、こういった作品にはこういった作品の役割があります。学校図書館でこの作品に出会う子供に祝福を。