『かえだま』(小森香折)

かえだま (あさがく創作児童文学シリーズ8)

かえだま (あさがく創作児童文学シリーズ8)

うさんくさい語り手がダメ人間の主人公を紹介する導入が、山中恒のユーモア作品を彷彿とさせて懐かしかったです。
12歳の少年大和は、食い意地がはっていておっちょこちょい。腕時計をなくすことにかけては天才的で、小学校入学以来30個以上をなくしているという困った子でした。そんな彼が、どう見ても自分の顔ではないイケメンが映っているお茶を飲み干したことから、自分の祖先である明治時代の豪商の息子勇二郎と入れ替わってしまい、明治時代を舞台にした陰謀に巻き込まれていきます。
祖先の勇二郎は大和とは正反対の文武両道の美少年でした。兄が別人になっていることを見抜いたブラコンの妹新子からは敵視され、西洋かぶれの家庭ではどじょうのトマトシチューなる珍料理を食べさせられ、慣れない明治時代でひどい目に遭わされます。
やがて、お茶の怪事件が小泉八雲の本に記述されていることを知った大和は八雲と面会を果たし、次第に事件の真相に近づいていきます。
小森香折は引き出しが多く、しかもいろいろなものを混ぜてくるタイプの作家なので、尻尾がつかみづらいです。この作品の明治時代も、狐が人を化かすと思ったら腕時計の妖怪が出てきたり、はたまたマウス・キッドなる義賊が暗躍していたりと、混沌とした世界になっています。しかしそれが不思議と調和していて楽しませてくれます。さらにこの作品では、往年のユーモア小説風の味付けもされているので、珍妙な味わいの得難い作品になっています。