『蘭郁二郎探偵小説選1』(蘭郁二郎)

蘭郁二郎探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)

蘭郁二郎探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)

蘭郁二郎は昭和前期に探偵小説や科学小説の分野で活躍した作家で、海野十三と並び称されるほどの存在でした。この本には戦時中の「小学6年生」等に掲載されていた児童向け探偵小説『少年探偵王』が収録されています。
『少年探偵王』は照夫という少年を主人公とするシリーズです。解題にあるように古典のトリックを流用したものもありますが、謎の提示の仕方がうまく論理展開も明快で楽しく読めます。なかでも運転手の乗っていない怪自動車が都内を暴走する話がよかったです。
戦後に単行本化された『少年探偵王』では主人公の名前が照夫になっていましたが、確認された初出誌では寺田和彦となっていました。なぜ主人公の名前が抹消されたのか、それを考察した解題が作品に匹敵するくらいミステリじみていて、興味深いものになっていました。戦争が文学に与えた影響を考える上で重要な資料になっています。
少年もの以外では、戦時中に発表された月澤俊平を探偵役とするシリーズものが収録されています。解題によると、戦時中は情報局の圧力によって探偵小説が壊滅状態にあったという推理小説史上の通説を、このシリーズによって覆そうという野心があるようです。