『色のない怪談 怖い本』(緑川聖司)

色のない怪談 怖い本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級〜)

色のない怪談 怖い本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級〜)

緑川聖司の「本の怪談」シリーズ最終巻。女の子がなにかを叫んでいるカバーイラストに「この本を読んでいる人お願いです。どうか彼を助けてください」という帯が付いています。子供が自分が読んでいる怪談本の怪異に巻き込まれていくというシリーズの形式から、内容はメタにならざるを得ないのですが、最終巻にきて作中人物から読者への呼びかけをするという事態になり、行き着くところまでメタをこじらせたかたちになりました。
最終巻は、文芸部に所属する「ぼく」が、文芸部活動の一環として近所に住む小説家の山岸良介に取材をするという設定になっています。山岸良介は自作の怪談を「ぼく」に読ませ、感想を求めます。
今回語られる怪談も、那須正幹リスペクトあり、ホラ話を怪談にアレンジしたものありと、バラエティに富んでいます。こうした上質な物語を読ませて子供に批評させるという行為がなにを意味するのか。山岸良介が偏愛する「怪談」を、「物語」や「小説」という言葉に置きかえてみれば、その意図がみえてきそうです。
メタ形式は読者を物語の世界に引き込むための大きな武器になります。シリーズ第2作のタイトルは『終わらない怪談 赤い本』でした。最初期から『はてしない物語』オマージュは、シリーズのコンセプトとして意識されていたのでしょう。
シリーズのエピソードを思い出すと、怪談であるだけではなく、あるものにはミステリ要素もあり、あるものにはSF要素もあり、人間の感情の機微を繊細に描いたものもありました。メタ要素を絡めて子供たちにありとあらゆる物語の楽しさを伝えたことが、このシリーズの大きな功績です。