『フランケンシュタイン家の双子』(ケネス・オッペル)

フランケンシュタイン家の双子 (創元推理文庫)

フランケンシュタイン家の双子 (創元推理文庫)

ヴィクター・フランケンシュタインに双子の兄がいたという設定で語られる、『フランケンシュタイン』の前日譚です。ヴィクターの兄コンラッドは重い病に冒されていました。兄を救うためにヴィクターは、フランケンシュタイン城に隠されていた〈闇の図書館〉の蔵書の錬金術の本を解読し、不老不死の霊薬を調合しようと試みます。フランケンシュタイン家の遠縁の少女エリザベス、双子の親友のヘンリー、うさんくさい錬金術師のポリドリらを巻き込み、霊薬探求の冒険が始まります。
カナダの児童文学作家ケネス・オッペルによるYAファンタジー。読者を決して飽きさせないウェルメイドな娯楽作品を得意とする作家で、この作品も安心して物語の世界に浸ることができます。霊薬の素材探しの冒険譚としてもよくできているし、三角関係のメロドラマとしても目が離せません。
錬金術の世界のあやしさをうまく描いているところも、この作品の魅力のひとつです。秘密の図書館を発見するところから、暗号を提示し、アグリッパやパラケルススの世界に読者を引き込んでいく流れの見事なこと。
さらには、オカルトと近代科学の相克を描いているところも興味深いです。コンラッドの担当医のムルナウは、瀉血を否定し患者の血液を調べて病気の正体を探ろうとする進んだ医者でした。しかし、それはヴィクターらの常識からあまりにもかけ離れていて、錬金術よりも奇妙だと思われてしまうのが皮肉です。ヴィクターらが作る霊薬は、結局ムルナウの近代の視点によって合理的に検証されてしまいます。
この作品世界をどのようにメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』につないでいくのか、続編が期待されます。