『ロボ☆友 カノンと、とんでもお嬢さま』(星乃ぬう)

第1回集英社みらい文庫大賞受賞作。小学生でも心を持ったロボットを自作できるくらいロボットが普及した世界の物語。最先端のロボットを開発する企業芦川エンジニアリングの企業城下町である芦中市を舞台に、ロボット大好き少女が活躍します。
小学6年生の少女稲葉カノンは、ロボット制作が趣味なのに、実用的なロボットをつくれません。自作のぽんこつロボちょこらとロボットコンテストに出場しますが、課題ののぼり棒を1ミクロンものぼることができず、大恥をかきます。ところがコンテスト後、芦川エンジニアリングのご令嬢芦川うららから、ちょこらが「他のロボットとはちがう、特別なものを持っている」からゆずってほしいと声をかけられます。常識のないうららの行動に振り回されながらも、友情を深めていくカノン。ところが、うららの兄がなぜかふたりの仲を引き裂こうとして、事件が起こります。

児童文庫は、いわゆるライトノベルとも、従前の児童文学とも異なる特別な分野です。ハイティーン以上を読者層とするライトノベルでは、作者の感性が多少強く出すぎても、「この世界、わからない人がいてもいい」という態度もある程度は許されるのかもしれません。でも、児童文庫ではだめです。情景もキャラも心理も、すべての児童が理解できるレベルの言葉できちんと説明し、目の前に映像が広がるように描きます。つまり現代文学からしたら「ダサくて」「超コンサバ」な書き方が基本。その上で軽さとスピード感に満ち、同時代性があるけど、つきぬけた、起承転結のある強い物語にする。お手本はディケンズやデュマ、って、古いですかね(笑)第1回集英社みらい文庫大賞選評より

石崎洋司は選評で上のように述べています。『ロボ☆友』はこの条件を満たしています。この話を簡単にまとめると、「塔に幽閉されている姫君を王子様が救出する話」ということになります。まさに王道、石崎洋司の言葉を借りれば、「ダサくて」「超コンサバ」。ちょこらの特別さとはなにかという謎も物語を引っ張って、見事なエンターテインメントになっています。
そしてすばらしいのがロボットちょこらの造形。四角い輪郭に、U字型の手、機能不明の耳当てといった相澤ロボットのようなレトロなデザインが、著者のロボ愛の深さを感じさせます。しかもちょこらは語尾に「ロボ」をつけるのです。「カノンちゃん、これムリロボ、棒がツルツルしてすべっちゃうロボ」とか言うのですよ。
おそらく著者は、SF者としての本性を隠しています。『ロボット統一基本法』という用語が出たり、ロボットの労働問題に触れたりしていますが、作品世界の背景をほのめかす程度で、SFといえるほどには深められていません。ぜひ次回作では本性をみせてもらいたいです。