『西遊後記 一 還の巻』(斉藤洋)

美猴王、弼馬温、斉天大聖、孫行者、悟孫空とか空悟孫といった適当な偽名、そして最後は闘戦勝仏。考えてみれば、世界一有名なお猿さんも〈イッパイアッテナ〉ですな。
斉藤洋理論社から西遊記のリライトを出していますが、まだ本編が終わっていないというのに後日談のシリーズを始めてしまいました。斉藤先生のきまぐれにも困ったものです。本編の斉藤版西遊記は未読なので、見当違いのことを書いていたら、ご容赦ください。
さて、この話は悟空が東海竜王と語り合う場面から始まるのですが、そこで悟空は闘戦勝仏と呼ばれることについての屈託を吐露します。そして、自分は不死で来世などないのだから、生まれ変わって闘戦勝仏になることはないのだと小理屈をこねます。本編の方でも斉藤版悟空は、名前へのこだわりを持っているのでしょうか。
それにしても、この後日談では悟空の三蔵法師に対するデレっぷりが尋常ではありません。来世の話題をしていてお師匠様は人間だからすぐ死んでしまうことに気づくと、悟空は話をそそくさと切り上げて、觔斗雲に乗ってすぐに三蔵法師のいる弘福寺に向かいます。しかも、東海竜王にもらった緊箍呪の輪っかのレプリカを、ずっと持ち歩いて大事にしているのです。ルドルフシリーズを読んでいればわかるように、斉藤洋は師弟愛や義兄弟の愛をねちっこく描く人です。きっと本編では、原典の西遊記以上に三蔵法師と悟空の絆が深く描かれていたのでしょう。