『レナとつる薔薇の館』(小森香折)

ヴィクトリア朝のイギリスが舞台。ロンドンに住む少女レナは、父親がインドに渡航することになったため、親戚のエドおじさんの家に引き取られることになります。なんとなくですが、インドと聞くと嫌な予感がしますね。案の定、父親は亡くなってしまい、レナは屋根裏部屋に閉じ込められてひどい虐待を受けます。
ということで、古典的少女小説のノリでこの作品は開始されますが、さらにゴシックホラーの要素も付け加えられます。上流階級のひいおじいさんの存在を知ったレナは、人買いに売られそうになる直前に逃げ出し、ひいおじいさんの住むつる薔薇館に赴きます。ところが、つる薔薇館には吸血鬼が住んでいるという噂が流れていて、レナは誰一人信用できる人物がいない館で謎に満ちた新生活を送ることになります。
小森香折は引き出しの多い作家で、いろいろな傾向の作品をものします。さらに、ひとつの作品に複数のジャンル小説の要素をぶち込んでごった煮にして奇妙な味のエンターテインメントに料理してしまえる、たぐいまれな豪腕を持っています。『レナとつる薔薇の館』は、そんな小森香折のおそろしさがよくあらわれている作品です。小公女vs吸血鬼という冗談としか思えない話に、あんな決着を付けるとは。