『お嬢様探偵ありすと少年執事ゆきとの事件簿5 古城ホテルの花嫁事件』(藤野恵美)

みつかりたくない。けれども、みつけてほしい。完全犯罪のジレンマ、とでも言うべきかしら。すばらしいトリックを実現してみても、完全犯罪で終わってしまえば、その事実を知られることはない。だから、犯人というものは、実は、探偵が謎を解いてくれるのを、心待ちにしているのかもしれないわね。(p74-74)

シリーズ第5弾。前作では物語が大きく動いて驚かされましたが、今回も執事とご主人様の絆がゆさぶられて大変なことになります。キャラクターへのいじわると読者へのサービスは正比例しますから、この調子でどんどんゆきととありすを不幸にしてもらいたいです。
さて、5巻では以前お嬢様に無人島を売りつけた帽子屋が再登場。魔女の継母が娘を一人殺し、もう一人の娘を塔に幽閉したが、娘が密室のはずの塔から消えてしまったという伝説のある古城ホテルと密室の鍵を売りに来ます。当然お嬢様は興味津々。ゼロがいくつあるか数え切れないような金額を惜しげもなく払おうとするところを執事が必死に止めて、とりあえず客としてホテルに宿泊するということで手を打つことになります。
ということで今回ありすが挑むのは、伝承された物語の謎です。藤野作品ではいつものことですが、迷妄に閉ざされた世界が理性の光によって啓かれていく快感がたまらなくよいです。本格ミステリとしての質の高さは今回も折り紙付きです。
さらには、伝説の世界と現代の古城ホテルで起こる事件、そして探偵ありすと名探偵である父親の確執を通して、親子の問題という普遍的なテーマにも取り組んでいます。